石切場(5)

祖父と祖母はそれぞれ違ったかたちでこども達に愛情を注いだようだ。
仕事を終えて帰ってくると、「いまから海にいくぞ」と声をかける。母は急いで水着に着替えて、二人で外にでる。家から2、3分歩けば海岸である。
「片手をおれの肩に添えておけよ」というと祖父は平泳ぎで沖へと向かう。内海なので夜の海は凪ぎだ。母はまだ三つか四つである。星明かりの下を泳いでいくと、まわりには夜光虫がただよっていてとても美しい。これを見せたかったのかもしれない。
祖父はまた、母をどこにでも連れていったようだ。家には駐在所の警官が、居心地がいいのか、いつもたむろしていた。祖父はときどき島の博打場に遊びにいった。
母が家で遊んでいると、警官が入ってきて祖父を連れ帰るようにいわれる。トコトコ歩いて博打場にいく。そこで、祖父のアグラをかいた足のあいだに母がチョコンとすわると、祖父はなにも聞かずにしばらくしてから外にでる。そして二人が家に着いたころには博打場に警察の手入れが入る、という算段である。