「粒」を読んで(2)

これもだいぶ以前のことだ。
ある件で合同庁舎にあった通産省出先機関を訪ねた。用件も終わって時間があったので、 COCOM (対共産圏輸出規制) のレクチュアを受けることになった。
そのとき驚いたのは、規制の内容が非常に細かいところにまで及んでいたことである。たとえば、布地を例にあげるとその材質はもちろんのこと、縦糸と横糸の組合せについても図面に表示されていた。
COCOM は条約であるからして、各国の法規の上位に位置する。しかし、このような細かな指定が規定に盛りこまれるということは、よほど担当者間の調整がなければできることではない。
その後、たしかロシアが社会主義圏を離脱したころだと思うが、ある会社がスクリューをロシアに輸出したことで告訴されたことがあった。あの条約はかたちを変えてまだ生きていた!
そのスクリューは水切音が小さくなるように設計されており、潜水艦に取り付けるとソナーでは見つけることができない、というのが理由だった。軍事用に転用される危険があるというのだ。
しかしこれはおかしい。スクリューの水切音が少なくなるということは、つまり海水の抵抗が減ってその分エネルギーが推進力のほうへまわる、ということだろう。船舶の航行を考えれば充分研究に値することである。
政策上軍事を優先することは、長い目で見れば技術の進歩を阻むことになる。このことに間違いはないようだ。

現在でもソフトウェアに関していえば、暗号関連での規制が存在しているはずだ。もちろん違反すれば実刑を受けることとなる。
ところで、考えればその実体がバイナリであれば告訴しようがない。当然そのコードの開示を強要されると考えてよい。
またそれが軍事面で有用であれば、暗号以外でも - たとえばセキュリティ関連のソフトでも - 規制を拡大するおそれは十二分にある。
COCOM というものがかつて存在し、現在でもかたちを変えて生き残っている、ということに少しでいいから注意してくれれば...と思う。
(ソフトウェアについては、ちょっと論旨のすすめ方が強引すぎたかもしれない)