石切場(12)

副業として経営していた料理旅館のほうも - それなりにだが - うまくいった。
港の近くに生簀を借り、祖父が漁船と話をつけて漁で魚が捕れたら適当に放りこんでもらう。一応は仕入値を取り決めているが、魚が何匹いても断らなかったらしい。ときには生きがよすぎて、生簀から跳んで外海に逃げるヤツもいた。通いの板前がいて料理全般を仕切ってくれる。
客層はというと、関西方面からは画家、小説家や実業家も、また近くに軍港があったので軍人もよく泊りにきていた。あと、雉子(キジ)狩りのハンターが年一回必ず訪れる。
そのために旅館の地下には猟犬用の檻がこしらえてある。犬たちは普段はとてもおとなしくしていた。
軍港で観閲式があると、名目だけは女将なので、祖母宛に招待状が届けられる。断りきれないのでそんな時には母親をつれて行った。セーラー服を新調してもらえてちょっとうれしい。祖母は美人だし、まあ小さなお目付け役だ。軍艦の甲板上でこの二人はよく目立っていた。
このころ中国との戦争が膠着状態になり、つづいて日米の間でも戦争がはじまる。
この小さな島にも少しずつ戦争の影響が現れてきた。