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[国会事故調 報告書批判 -- SPEEDI の 運用に 関して]
要約版から 該当箇所を 引用します。

住民の 防護対策のため、政府は 緊急時対策支援システム (ERSS)、SPEEDI を 整備してきた。 環境放射線モニタリング指針では、ERSS によって 放射性物質の 核種や 時間ごとの 放出量 (放出源情報) を 予測計算し、その 結果を もとに SPEEDI によって 放射性物質の 拡散状況等を 予測計算して、避難等の 住民の 防護対策を 検討することが 想定されていた。 毎年の 防護訓練でも、この 利用法による 訓練が 繰り返し 行われていた。

しかし、ERSS と SPEEDI は、基本的に 一定の 計算モデルを もとに 将来の 事象の 予測計算を 行う システムであり、特に ERSS から 放出源情報が 得られない 場合の SPEEDI の 計算結果は、それ 単独で 避難区域の 設定の 根拠と することが できる 正確性は なく、事象の 進展が 急速な 本事故では、初期の 避難指示に 活用することは 困難であった。 原子力防災に 携わる 関係者には、予測システムの 限界を 認識している 者も いたが、事故前に、予測システムの 計算結果に 依存して 避難指示を 行うという 枠組みの 実現に 至らなかった。 また、予測システムの 限界を 補う 環境放射線モニタリング網の 整備等も 行われなかった。

本事故においては、ERSS から 長時間に わたり 放出源情報が 得られなかったため、保安院文部科学省を 含む 関係機関では SPEEDI の 計算結果は 活用できないと 考えられ、初動の 避難指示に 役立てられることは なかった。 安全委員会が 公表した 逆推定計算の 結果は、あたかも 予測計算であると 誤解されたために、すみやかに 公表されていれば 住民は 放射線被ばくを 防げたはずである、SPEEDI は 本事故の 初期の 避難指示に 有効活用できたはずである、という 誤解と 混乱が 生じた。

果たして そうか ?
事故後 SPEEDI の 運用についての 報道に 接した 識者は この 問題を どう 把握していたか、当委員会の 一員でもある 崎山比早子氏の 論文から 該当する 箇所を 引用してみる。

不幸中の 幸いにも、事故当時の 季節風は だいたい 海側に 向かって 吹いていた。 しかし、ドイツの 気象庁から 毎日 発表される 放射性物質拡散の シュミレーションを 見ると、いったん 海のほうに 流れた 風も 巻き返して 陸上に 向かうことも あった。 水素爆発が 予測できなかったのは 東京電力原子力安全委員会はじめ 原子力保安院の 無能さを 露呈したものだから、わからなかったことを 責めても どうしようもない。 しかし、ベントは 人為的に 格納容器内に ある 高濃度の 放射性物質を 含む 蒸気を 逃すのだから、その 拡散を 予測し、風下になると 予想された 住民を 避難させるべきであった。 そのことを 検討したという 報道は 聞いていない。 原子力安全委員会が 管理する 緊急時迅速放射能ネットワーク (SPEEDI) は まさに そのために 存在するのだ。 しかし、原子力安全委員会が 発表したのは 3月 12日から 24日までの 放射性ヨウ素積算値であり "汚染結果" であった (原子力安全委員会 プレスリリース 3月 23日)。 ...

しかし、今回の 事故の 場合、SPEEDI は 何の 役にも たたなかった。 というより 役に たつように 活用しようと しなかったと いったほうが 正確だろう。

『科学』 2011年 No.6 「原発事故と 低線量放射線被ばくによる 晩発障害」

また、当委員会の 参与でもある 児玉龍彦氏は 昨年 8月の 報道番組の 中で どう 答えているのか。

-- スピーディは 動いていたのに、情報が 発表されなかった。 それについては どう 思うか (文部科学省の 外郭団体である 原子力安全技術センターが 運用している。 今回の 事故で 最初に 予測結果が 発表されたのは 3月 23日だった)。

スピーディは 動いていました。 スピーディは 128億円かけて 導入した コンピュータです。 私も 仕事で スーパーコンピュータを 使っているので、スピーディの チームが 事故直後から 動いていたのは よく 知っています。

予測と 実測と いうことが あります。 政府は、必要な データが 全部 そろっていなかったから、予測結果を 発表しなかったと 言っています。 だが これは 違うのであって、データが いろいろ 足りないから、予測が 大事なのです。 データが 足りない 中で、危険性など、「一番 可能性が 高いのは こういうことだ」 という 結果を 出すのが 大事なのであって、データが 全部 そろっていたら、それは 実測です。

児玉龍彦著 『内部被爆の 真実』 2011年 9月刊

報告書の 記述は 当委員会の 運営にも 関わる 両人の 意見とは まったく 対立するものであり、これでは 結果的に 関連省庁 (経済産業省文部科学省 および 気象庁) の 過失責任の 相当部分が 免責されることになります。
7月 5日、委員会が 提出した 報告書の Amendment を 早急に 作成されることを 国会事故調 各位に 要求します。
(追記) 本編を 読了。 やはり 拡散予測の 困難さを システムに すべて 押し付けている。 あと、後半の 3月 23日の 逆推定計算の 箇所は 強引に 「誤解を 与えた」 と 結論づけているように 思う。 安全委員会は その後、訂正する 機会が もてなかったのでは ないのだから。