石切場(14)

祖父は からだの 弱い 母のために、屋根裏に 遊び場を 作った。 床には 板を 張り、梁に じょうぶな 綱を かけて ブランコを こしらえた。
自分だけの 遊び場なので、母は そこで こっそり カイコを 飼い始めた。
ある日の 晩、屋根裏から カサカサと 音がするので、祖母が 屋根裏を のぞき カイコが 入ってる 木箱を 見つけてしまった。 その日のうちに 捨てられたが、母は うらむでもなく すぐ 別の 遊びを 探した。
祖母は 姉のために 実家から 明治時代に つくられた りっぱな 雛人形を 取り寄せた。 しかし、姉は それが 古かったので 気に入らず、結局 その頃 はやっていた 御殿作りの ひな壇を 買ってもらった。
それで、その 雛人形は 母のものに なった。 しばらくは おとなしく 眺めていても、そのうち 人形の首を ひっこ抜いて 畳の上に ばらまき、外に 遊びに 行ってしまった。
祖母は 人形を しまう時、丁寧に 和紙で くるみながら 「お嫁に いくのが 遅くならないよう 早く しまいましょうね」と いった。
母は 十九歳で 嫁いだので、祖母の 願いは かなったわけだ。