読書ノート

アメリカ文学の源流 マーク・トウェイン』 (1994)
トウェインについて 書かれたものの 中では、池上日出夫さんの この本が、おそらく 唯一、「ファンストン将軍の弁明」、「ロシア皇帝の独白」 そして 「レオポルド王の独白」の 三部作を 詳しく 紹介したものだと 思う。
池上さんは 長年に わたり 自分の セミナーで トウェインの 「ハックルベリ・フィンの冒険」を 輪読していて、そこから 彼の 文学の 全体像が 現在でも 歪曲されていることに 気づく。
それは 例えば、ヘミングウェイによる 次のような 評言だ。

すべての 現代アメリカ文学は、マーク・トウェインの ハックルベリ・フィンという 1冊の 本を 源と している。

(ただし) その本を 読むときには、黒んぼの ジムが (ペテン師に 売り払われて、フェルプス農場に 監禁されているところで) 読むのを やめなければならない。

それが 真の 結末である。 (そして) 残りの 部分は ごまかしだ。

アメリカの緑の丘」

ヘミングウェイの この断定を、池上さんは 小説の 文脈を たどることで、それを 誤りとして しりぞけている。
そして、晩年に 著わされた 「人間とは何か」 -- それは 匿名で 出版された -- に ひきつけて、トウェインが 最終的には ペシミズムに おちいったという 批評に 対し、それが ある政治的立場から 導かれたものでしかないことを 論証する。
上記の 三部作は その過程で 取り上げられ、また トウェインの 「自伝」を 口述筆記した Albert B. Paine という 人物による 作品の 意図的な 改変を 紹介している (彼は 出版社と 組み The Mysterious Stranger 「不思議な少年」の 結末を 書き換えていたのだ!)。
この 三部作と 同時期に 書かれた 短篇、The War Prayer 「戦いの祈り」が そこで 紹介されているが、この作品については 池上さんの 近作 『アメリカ不服従の伝統』(isbn:9784406051415) の 終章において もう一度 詳しく 取り上げられることとなる。
(追記) The War Prayer の radio drama version を Internet Archive から 聞くことが できます。 英語だけど ...
http://www.archive.org/details/MarkTwainsTheWarPrayer
(さらに 追記) wikisource に The War Prayer の text が 収録されています。
http://en.wikisource.org/wiki/The_War_Prayer