miscellanies

近藤芳美集〈第1巻〉歌集 1
歌人の 近藤芳美が 亡くなっていたのか ...*1
手元には 彼の 自選集 『流星群』 が ある。 100 ページ ちょっとの 小さな 冊子だ。 紹介を 兼ねて、少し 写してみます。

果てしなき彼方に向ひて手旗うつ万葉集をうち止まぬかも (早春歌)

ウラニウムの出ずる地帯を争ひて戦ひありと今日も告げたり (埃吹く街)

二人とも傷つき易し子が欲しと言ひし事より小さきいさかい (同)

漠然と恐怖の彼方にあるものを或ひは素直に未来とも言ふ (同)

利用されて居るのだと君が言ふのならそれも知りたり一人別れて (静かなる意志)

異端には天の火群(ほむら)を降り下しあくなき復讐を神としたりき (同)

長ながと何を恐れて弁疏(べんそ)する手を血ぬらせし支配者の声 (冬の銀河)

一生吾がいだきて行かん寂しさや川暗く舟艇衛兵の夢 (喚声)

茫々と影行かしむるこがらしか棄教のはての哄笑(こうしょう)の声 (黒豹)

(カッコの中は 初出歌集の名)

1つ目の 歌は、おそらく 彼の歌のなかで 一番 知られているものです。 "舟艇衛兵" として 中国へ 出征したとき、船上から 陸に向かって 手旗信号で 万葉の歌 - 恋の歌でしょう - を 日本に 残した 新妻に 届けとばかり うち振っている、そういう 歌です。
2つ目の 歌は、朝鮮戦争 当時のもの。停戦ライン上には U.S.A. の一私企業が 採掘権をもつ 鉱山があり、その大株主が ダレスであった。
6つ目の 歌は、これだけでは 読まれた 状況は わかりませんが、その題材は 旧約聖書から とられている。
あとの歌には 説明は 不用でしょう。
初めて 読む人には 通常の 短歌のイメージとは 違うものを 感じるだろうが、これが 彼の歌です。 あくまで リリックであり、かつ 叙事を 読み込むことを 厭わない、とでも いった。 読んでみたくなってくれると いいんだけど ...
(追記) 著者の 『歌い来しかた』 を 読むと 「ウラニウム ... 」 の 歌は、中国辺境での 資源の 争いを 歌ったものと されていた。今まで 朝鮮戦争の 一こまを 詠んだものだと 思っていた ...
ただ、ダレスが その地の 利権に 深く 関わっていたことは 事実ですが。

*1:新聞を とってないので