「科学者の社会的責任」について (1)

 島薗進著『原発放射線被ばくの科学と倫理』(2019年刊) 第2部 第2章「多様な立場の専門家の討議」

「科学者の社会的責任」についての長瀧 (重信) の考え方は、... ここでは 2012年に刊行された長瀧の著作、『原子力災害に学ぶ放射線の健康影響とその対策』から同趣旨の論を引用する。(島薗進さん)

「何度でも繰り返すが、科学的に不確実な範囲で、科学者、専門家が無秩序に個人の意見を社会に直接発表すれば、社会は混乱する。(ただし) 学会という範囲内での発表は科学者として自由である」(長瀧重信)

このような「ルール」がある科学分野は放射線の健康影響以外にあるだろうか。科学が政治的、軍事的に統制されているという核・原子力分野であるからこそ、このような「ルール」が成立したと考えるべきであろう。(島薗進さん)

福島原発事故以後の放射線の健康影響についての科学者の発言として、たとえば study2007 という匿名でいくつかの論文を『科学』誌に、また『見捨てられた初期被曝』(岩波書店 2015年) という著作を発表した科学者がいる。このすぐれた業績を残した科学者は 2015年 11月にがんの悪化により世を去っている。(島薗進さん)

長瀧の立場からすれば、この科学者は「科学者の責任」から背いたことになるのだろう。(島薗進さん)

長瀧が統一見解を分かち合える専門的な科学者と言えそうな山下俊一、神谷研二、中川惠一など、放射線医学や放射線影響学の専門家たちの言うことは、厳しい批判にさらされ続けてきた。そのような批判に応じて開かれた討議に加わることこそ、科学者の社会的責任を果たすことではないだろうか。(島薗進さん)